浦和地方裁判所 昭和53年(ワ)594号 判決
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【判旨】
一訴外亡岡部治夫が岡部商店なる名称で製紙原料の仕入販売業を営み、昭和五〇年三月三日油圧式故紙梱包機「EL三〇〇型故紙梱包機四〇〓」(本件機械)を購入しこれを埼玉県戸田市美女木三、八三五番地ほか数筆の土地上に所在する鉄骨木造亜鉛メツキ鋼板葺陸屋根二階建作業所兼居住宅一棟のうち一階の作業所床面積117.48平方メートルの岡部商店故紙梱包作業場(本件作業場)に設置して使用していたが、同五〇年八月一九日午後七時ころ本件機械のホツパーの押え蓋と投入口の縁に挾まれ、腹背部を切断して死亡した(本件事故)事実は、当事者間に争いがない。
二原告らは、本件事故は本件機械の欠陥によるものであると主張するので、先ず、本件機械の構造、機能、被害者治夫の行動、事故発見時の状況等の点について検討する。
(一)1 本件機械は、故紙塊の梱包を目的とするもので、右モーターの容量が三〇キロワツト、ホツパーの押え蓋の重量が二〇〇キログラムであること、右機械は、投入口にベルト・コンベアで故紙を投入し、故紙が一杯になると油圧装置によりホツパーの押え蓋を一定間隔で上下運動させて故紙を上から圧縮し(左右壁の圧縮作用も加わつて)故紙塊として梱包するものであることは、当事者間に争いがない。
2 <証拠>によると、次の事実を認めることができ、これを動かすに足りる証拠は存しない。
(1) 本件機械は、制御盤、油圧タンク、ベルト・コンベア、投入口、ホツパー、紐通し、締付シリンダー等からなり、本件作業場内に、別紙図面(一)に表示するとおり、制御盤、ベルト・コンベア、ホツパーの上部を除いて地下に設置され、その平面は同図面(二)、立面は同図面(三)及び制御盤は同図面(四)に各表示するとおりであること。
(2) 本件機械は全自動、手動としても使用できるが、これを全自動で使用する場合には、先ず制御盤北側上方にある電源スイツチを入れ(別紙図面(四)に表示する①の電源ランプが点灯する。以下の番号は右図面に表示する番号である。)、次に⑨の手動・自動切替スイツチを自動にして④のコンベア作動時間タイマーをセツトし、⑪のコンベア切替スイツチを運動にし、④のコンベア作動時間タイマーによりコンベアの作動時間とこれに続くホツパーの押え蓋の上下運動の回数をセツトし、⑤の右タイマー入切スイツチを入れる。次に、⑩のホツパーカウンターによりホツパーの押え蓋と横押しカウンターの入切スイツチを入れ、次いで⑭の紐通しカウンターをセツトし、これにより紐通しシリンダーが横押しシリンダーの一定回数の運動後に作動するようにし、最後に(電源スイツチを入れた次でもよい。)②の起動スイツチにキーを差し込んで回すという順序を経て操作をするが、⑤のスイツチを入れてない場合には、⑦のスタートボタンを押してホツパーの押え蓋を手動で使用することができ、この場合ベルト・コンベアは停止し、ホツパーの押え蓋が上下に運動をすること。
なお、別紙図面(一)に表示する⑦には紐通し、コンベアの各ボタンが、同図面(四)に表示する③には非常停止ボタンが設置され、右③の非常停止ボタンを押すと本件機械の作動はすべて停止され、紐通しボタンを押すと紐通しが、ベルト・コンベアボタンを押すとベルト・コンベアが各停止するほか、投入口の西側乃び南側には危険防止のための鉄柵が設けられていたこと。
3 <証拠>を総合すると、右のようにして本件機械の起動スイツチを入れると、油圧ポンプとモーターが作動し、その約一〇秒ないし一五秒後に幅一メートルのベルト・コンベアが動き始める(これをスターデルタ方式という。)そこで故紙梱包作業の順序としては、
(1) 先ず、横0.95メートル、縦0.65メートル、深さ1.32メートルの投入口の側壁に合紙(いわば包紙ともいうべきものであつて、故紙梱包塊をきれいに仕上げるためのもの。)を立てかける。
(2) 次に、ベルト・コンベアは予めセツトした時間だけ回転するので、この上に故紙を載せて投入口に投入する。
(3) 右ベルト・コンベアの停止後、二〇〇キログラムのホツパーの押え蓋がシリンダーにより上下運動をし、これによつて投入口に存する故紙を一定回数(一回から三〇回までセツトできる。)押え込んで圧縮する。なお、右押え蓋とベルト・コンベアが同時に作動することはなく、右押え蓋の上下運動一回に要する時間は、下降に四秒余、上昇するのに三秒余計約八秒である。
(4) 押え蓋によつて圧縮された故紙は、横押しシリンダーによりアウターの中に押し込められ、締付けシリンダーにより締め付けて固められ、アウターを通過する際紐通しがなされて取出口に押し出される。
(5) 右紐通しがなされた故紙塊(三〇〇ないし五〇〇キログラム)に通された紐を縛り、チエーンを使用して運び出す。
以上の事実を認めることができる。
(二) 次に、<証拠>を総合すると、
1 治夫は、本件事故当日午後三時過ぎころ埼玉県朝霞市内の訴外二葉紙工にトラツクで故紙の引取りに赴き、同日午後五時ころ本件作業場に戻り、そのころ訴外富樫某の妻某によつて一服していた治夫の姿が現認されたこと。
2 同日の日没は午後六時三〇分ころであつたが、たまたまそのころ外廻りから右作業場に戻つた治夫の臨時従業員(アルバイト)通称ゲンマこと氏名不詳の者が、作業(トラツクからの故紙の荷下しと推認される。)を終えた後治夫を探したところ、投入口の中に同人の屍体を発見したこと。
3 右屍体は、ベルト・コンベアを背にして腹背部において二つに切断されたものであつてその上半身は、頭部を北側に向け右手を梢々開いて伸ばし左手を側部につけて伸しており、下半身は、左足をくの字のようにして立て右足は九〇度位に折り曲げて右大腿部に付けており、血痕は、投入口の底のアウター入口付近とホツパーの押え蓋とベルト・コンベアの摺合部付近に付着していたこと。
4 右治夫の死亡時刻は午後七時ころ(前説示のとおり)と推定されたが、右屍体発見時本件作業場には電灯が点けられておらず、本件機械には全自動のスイツチが入れられ、ホツパーの押え蓋が上下運動していた(この点は、当事者間に争いがない。)が、ベルト・コンベア及び横押しシリンダーは停止しており、また、投入口の底には一枚の合紙が入つていたが故紙は投入されておらず、又アウター及び押出口付近には梱包若しくは圧縮された故紙塊が存しなかつたこと(なお、右コンベア付近に投入口に投入するための故紙が用意されていたとの事実を認めるに足りる証拠もない。)。
5 本件事故後警察官による実況見分がなされたが、その際本件機械は正常に作動したこと。
以上の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠は存しない。
三そこで、本件事故が欠陥のある本件機械によつて発生したものであるかどうかを判断する。
(一) 先ず、原告らは、本件事故が故紙の梱包作業中に発生したものであると主張する。なるほど、本件事故が発見された際、本件機械には全自動のスイツチが入れられており、ホツパーの押え蓋が上下運動をしていたとの事実は、前叙のとおりであるが、治夫の死亡時刻と推定される午後七時ころは、日没後約三〇分を経過していたとの前示認定事実に徴すると、屋外ならともかく、屋内で電灯も点けずに本件作業場内で本件機械を操作し故紙梱包作業に従事するが如きことは通常考え得ないところであるばかりでなく、投入口に故紙が投入されておらず、またアウター及び押出口付近に圧縮若しくは梱包された故紙塊が存しなかつたとの前示認定事実によると、治夫が故紙をその投入口に投入する作業に従事中、ベルト・コンベアに足をとられ、若しくは足を滑らせて投入口に転落したものと認める余地はない。原告本人岡部弘は、投入口に合紙が一枚入つていたことを捉えて、「合紙が倒れたのでスイツチが入つているのに気付かずに中に入つたものと思う。」旨供述するが、右合紙がいつから投入口に存したかは明らかでなく、仮に本件機械を全自動で作動させるように操作した後治夫において合紙を投入口に入れ、その後に投入口に入つたものであつたとしても、原告本人岡部弘が「スイツチが入つていることを知つて投入口に入ることは危険でできない。」旨供述するところからも明らかなように、このような行為は、この種機械を操作している人にとつては考え得られない危険な行為であるが、更に倒れた合紙を直すことに気を奪われて右機械に全自動のスイツチを入れたことを失念したとするなら、それは自殺行為にも比すべき重大な過失が存したといわざるを得ないであろう。
(二) 次に、原告らは、治夫が投入口の内部で点検作業に従事中ホツパーの押え蓋が自然に落下したか、或いは故紙塊が積まれていた山から落下し、制御盤のスイツチに触れてホツパーの押え蓋が作動を開始したものである、とも主張する。
1 原告本人岡部栄治郎、同岡部弘は、原告栄治郎は、昭和五〇年七月中作業のため投入口に入り治夫が電源スイツチを切つたが、ホツパーの押え蓋が自然に落下したので近くにあつた鉄パイプを支えにして漸く難を免れた旨各供述し、被告本人中村久男も、ホツパーの押え蓋が水平面から五〇度位以上のとき停止ボタンを押すと、油圧の作動が止るため約八ないし一〇秒の間に約0.8メートル落下する旨供述するが、本件事故においては、既に説示したように、当時本件作業場には電灯が点けられておらず、しかも本件機械は電源スイツチが入れられ全自動の状態で作動しており、しかも本件事故後の実況見分の際右機械は正常に作動したというのであるから、このような状態のもとに、治夫が投入口において点検作業若しくは梱包作業の準備中であつたとは認められないし、もとよりホツパーの押え蓋が自然落下したという事実も考えることができないのである。
2 次に、既に説示したところによれば、本件機械は全自動の状態において作動していたというのであるから、原告らの主張するような故紙塊の落下によつてスイツチが入つたとするならば、前示②の起動スイツチ、④のコンベア作動時間タイマーボタン及び⑤のコンベアタイマー入切スイツチのいずれかが故紙塊の落下によりそのスイツチが入つたことになるが、被告本人中村久男尋問の結果によると、②のスイツチは自動車のそれと同様に鍵を差し込んで廻すといつた方式のものであり、⑤のスイツチは手前に低く傾斜した制御盤上のつまみを下から上に押し上げて入れるスイツチであり、また、④のスイツチは左右に廻して入切するものである事実を認めることができるから、右スイツチは、いずれも故紙塊の落下によつて入つたものとは考えられない。のみならず、本件事故発生当時制御盤の上に故紙の袋があつた旨の原告岡部弘の供述部分は、明確さを欠いて措信できず、他に故紙塊が制御盤上に落下したとの事実を認めるに足りる証拠も存しない。
(三) それならば、治夫は、原告らの主張するように誤つて投入口に転落したのであろうか。しかし、このような事実も認めることはできない。すなわち、投入口の西及び南の各側には鉄柵があつてこの方面より転落するが如きことは考えられない。従つて、治夫が誤つて転落したとするなら東側、すなわちベルト・コンベアに面した部分からということになるが、本件機械の構造、特に投入口の前示状況からしても、更に治夫が右機械の危険性を熟知している点からしても誤つて同人が右入口に転落するといつた事態は凡そあり得ないところに思われるけれども、仮に治夫が右機械を全自動で作動させるべく操作を終えた後誤つてベルト・コンベアに乗つたところこれが動き出したため、或いはその他何らかの理由によつて投入口に転落したとしても、<証拠>によると、治夫の身長は1.66メートルである事実を認めることができるところ、右投入口は横0.95メートル、縦0.65メートル、深さ1.32メートルであること、ベルト・コンベアは一定時間作動した後に停止すること及びホツパーの押え蓋は右ベルト・コンベアの停止後に作動しこれが落下するまでに要する時間が四秒余であるとの前叙事実によると、治夫は右押え蓋が落下するまでに容易に投入口から脱出し得たものと認めざるを得ない。
(四) 次に、原告らは、本件機械は制御盤の指示に反し勝手に作動し又は停止することを挙げて電気回路の欠陥を主張する。なるほど、電気回路に故障の存した事実は、当事者間に争いのないところであるが、<証拠>によると、右電気回路の故障とは、本件作業場に本件機械を設置した後三回ほど整流器のコイルが切れた事実を指すものである事実を認めることができる。しかし、これを取替えた後は故障が生じなかつた事実も、右尋問の結果によつて認めることができ、これに本件事故後の実況見分の際本件機械は正常に作動したとの前叙事実を総合すると、本件機械には本件事故当時原告らの主張するような電気回路の欠陥も存しなかつたものといわざるを得ない。
もつとも、本件事故発見の際、本件機械は全自動のスイツチが入れられていたが、ベルト・コンベア及び横押しシリンダーは停止しており、ホツパーの押え蓋のみが上下運動をしていたというのであるから、その電気系統に何らかの故障があつたのではないかとの疑問を抱く余地がないでもない。しかし前叙事実によると、本件機械は、全自動として使用する場合、起動スイツチを入れると油圧ポンプとモーターが作動し、その一〇ないし一五秒後に予めセツトされた時間ベルト・コンベアが動き、その停止後にホツパーの押え蓋が予め定められた回数だけ上下運動をし(その一回に要する時間は約八秒である。)、その後横押しシリンダーが作動するというのであつて、本件においてベルト・コンベアにセツトされた時間、右押え蓋にセツトされた回数は明らかではないが、起動スイツチを入れてから右押え蓋の上下運動が停止するまでには相当な時間を要することは明らかであるから、本件事故は右押え蓋の停止時以前に発見されたものとしても不合理なものということはできず、従つて本件機械が全自動の状態にありながら、ベルト・コンベア及び横押しシリンダーが停止しており、右押え蓋のみが上下運動をしていたからといつて敢えて怪しむに足りない。
(五) 以上に認定したとおり、治夫の本件事故は、その業務たる故紙梱包作業ないしその準備中、又は本件機械の点検中、若しくは誤つて投入口に転落した際、ないし電気回路の故障などによつて生じたものと認めることはできない。むしろ、<証拠>によると、治夫はその妻節子と不和を醸し、節子は本件事故当時子二人を連れて家出しており、また、その弟である原告弘とも必ずしも円満でなかつた事実が認められ、右の事実に治夫が死亡した当時本件作業場には電灯も点けられておらず、しかも同人はベルト・コンベアを背にするといつた不自然な姿勢で腹背部を切断された等の前叙認定事実を総合すると、被告らの主張するように、治夫の死亡は自殺であると推認することも強ち不合理なものではない。これを要するに、原告らの全立証をもつてしても、本件機械に、ベルト・コンベアとホツパーの摺合部付近に人の立入りを防止する安全装置、ホツパー付近に右機械を停止するための安全装置、緊急電源遮断器、油圧回路にホツパーの押え蓋の定点停止手段、制御盤の保護遮蔽装置等がなかつたことなど、原告らの主張する瑕疵が、本件事故の原因であつたと認めることはできないのである。
(長久保武 大喜多啓光 坂野征四郎)
図面<省略>